1.はじめに:相続登記義務化とは?

相続登記とは、不動産を相続した際に、その名義を前の所有者から新しい所有者に変更するための手続きです。例えば、家やアパートなどの不動産を親から受け継いだ場合、その不動産の名義を相続人に変更する必要があります。この手続きが「相続登記」と呼ばれるものです。

1-1.2024年4月1日から相続登記義務化実施

これまで、相続登記は義務ではなく、行うかどうかは任意でした。そのため、相続した不動産の名義を変更せずに放置し、所有者が不明確なままになっているケースが多く見受けられました。しかし、このような状況は多くの問題を引き起こす可能性があるため、その解決策として2024年4月1日から相続登記が義務化されたのです。

1-2.なぜ今、義務化されるのか?その背景

相続登記の義務化は、「所有者不明土地」の問題が背景にあります。
相続登記が行われず所有者が不明のまま放置された結果、全国で約410万ヘクタール(九州の面積を上回る広さ)もの土地が所有者不明となり、公共事業や民間プロジェクトに支障をきたす他、空き家問題も深刻化しています。このように、土地の有効活用が妨げられ、経済発展にも悪影響を及ぼしています。

この問題の主な原因は、相続登記が任意であることにあります。国土交通省の平成30年版土地白書によると、所有者不明土地の発生原因の約66.7%相続登記がされていないこと、約32.4%住所変更登記がされていないことによるものです。

2.相続登記義務化の対象となる条件

相続登記が義務化されたことで、すべての相続人がこの手続きを行うわけではありません。義務化の対象となる条件には、まず「相続財産に不動産が含まれていること」が前提となります。以下の条件に該当する相続人は、一定の期間内に相続登記を行う必要があります。

条 件期 限
不動産を相続した場合所有権取得を知った日から3年以内
遺産分割が成立した場合遺産分割が成立した日から3年以内
令和6年4月1日以前に相続が開始された場合相続開始から3年以内(3年間の猶予期間があり、早めに登記を申請が推奨されている)

なお、正当な理由がないまま義務に違反した場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

 新ルール①:3年以内に相続登記

相続登記の義務は、相続が発生した日から3年以内に行う必要があります。この3年のカウントは、不動産の相続を「知った日」から始まります。

具体的には、相続登記が義務化された2024年4月1日以降に不動産を相続した場合、その不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。たとえば、親が所有していた不動産の相続を新たに知った場合、その日がカウントの起点となり、3年以内に手続きを完了させる必要があります。

また、2024年4月1日より前に相続が発生していた場合でも、施行日を起算点とし、そこから3年以内に相続登記を行う必要があります。これにより、過去の相続についても適切に対応しなければなりません。

3-1.過去の相続物件も対象となる点に注意

2024年4月1日から施行された相続登記義務は、施行日以降の相続だけでなく、過去に発生した相続物件にも適用されます。つまり、施行日より前に相続が発生し、まだ登記が行われていない不動産についても、この新しい義務が適用されるということです。

この場合、相続登記の期限は、不動産の相続を「知った日」から3年以内、または施行日から3年以内のいずれか遅い方が適用されます。したがって、過去に相続した不動産でも、2027年4月1日までに登記を完了しなければなりません。

 新ルール②:10万円以下の過料

相続によって取得した不動産について、正当な理由がないまま3年以内に相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。この規定は、遺言による遺贈の場合でも適用されます。

ただし、相続登記を3年以内に行えない「正当な理由」がある場合は、過料の対象とはなりません。法務省によると、以下のようなケースが「正当な理由」として認められる可能性があります。

  • 相続人が多数で、必要な資料の収集や相続人の把握に時間がかかる場合
  • 遺言の有効性や遺産範囲が争われている場合
  • 相続登記申請義務者が重病などの事情を抱えている場合
  • 相続登記申請義務者がDV被害者等であり、生命・心身の危害が及ぶ恐れがある場合
  • 経済的困窮により登記申請費用を負担できない場合

これらの理由に該当しない場合でも、法務局の登記官は個々の事情を総合的に考慮し、具体的な事案に応じて「正当な理由」の有無を判断します。

3.放置は危険!相続登記を怠る3つのリスク

3-1.不動産の相続問題が複雑化

数代にわたって相続登記をせずに放置すると、不明確なまま不動産を所有する推定相続人が増えていきます。どれくらいの持分なのか不動産登記簿から確認できませんので、正確な持分が不明確になります。実際、明治時代から登記されていない物件では、100名以上の相続人が発生し、名義変更には2年以上かかりました。

相続登記を放置すると、専門家でも対応が困難になることがあります。早めに対処し、遺言書に記載する財産が正確であることを確認することが重要です。これを怠ると、遺言が部分的または全体的に無効になるリスクがあります。

3-2.不動産の売却・活用ができなくなる

相続登記や住所変更が放置されると、不動産の売却や活用が難しくなります。登記簿で売主の名義が確認できない場合、購入希望者や事業者は取引リスクを感じ、契約を避ける傾向があります。例えば、アパート建設の際にも、所有者が明確でなければハウスメーカーは土地の利用に消極的になります。

3-3.抵当物件として利用できない

土地に建物を建てて融資を受ける際、金融機関は担保としての土地の登記簿を確認します。相続登記が放置されていると、正確な所有者が不明であるため、金融機関はその土地を抵当物件として受け入れないことがあります。

4.相続登記の手続きの流れ

相続登記は、法務局で登記手続きを行う必要があります。以下の手順にのっとり、申請を行いましょう。

4-1.不動産の所在地の法務局を確認

相続登記は、不動産の所在地にある法務局で行います。手続きには、①窓口で直接申請する方法、②郵送での申請、③オンラインでの申請があります。郵送やオンライン申請には専門的な知識が必要で、特にオンラインでは事前に電子証明書の取得が必要です。一般的には、窓口での申請が推奨されています。

4-2.必要書類の準備と申請書の作成

登記手続きの一般的な流れは下記の通りです。

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書などの必要書類を集める
  • 登録免許税の税額を計算して登記申請書を作成する
  • 申請書と必要書類を法務局に提出して登録免許税を納付する

登記手続きの内容によって、必要な書類や登記申請書の内容も変わってきます。手続きの流れや必要書類は、管轄の法務局にあらかじめ確認するようにしてください。

管轄のご案内(法務局ホームページ)

4-3.登録免許税の計算と納付

相続する不動産の固定資産評価額に基づいて、登録免許税を0.4%で計算し、納付します。例えば、評価額が3,000万円の不動産であれば、登録免許税は12万円になります。
住所変更登記の場合、不動産の個数ごとに1,000円が必要です。

4-4.相続登記識別通知の受領

相続登記の申請が完了し法務局での審査が無事に終了すると、「相続登記識別通知」が発行されます。この通知は、相続登記が正式に完了したことを証明する重要な書類です。かつては「登記済証」と呼ばれていたものに相当し、不動産の新しい権利者を確認するために必要なものです。

この相続登記識別通知は、将来の売買や抵当権設定など、登記名義人が不動産を取引する際に必要となりますので、大切に保管してください。通知の受領後は、すぐに内容を確認し、不備がないかチェックすることをお勧めします。

5.相続登記に必要になる書類

相続登記を行うためには、さまざまな書類を揃える必要があります。これらの書類は、不動産の種類や相続の形態によって異なりますので、事前に確認しておくことが重要です。

書類名入手場所
被相続人の戸籍謄本(出生~死亡)市区町村役場
被相続人の住民票除票
相続人全員の戸籍謄本
不動産を相続する相続人の住民票
登記事項証明書不動産所在地の法務局
固定資産評価証明書不動産所在地の市区町村役場
相続関係説明図自分で作成
委任状 ※司法書士に依頼する場合
登記申請書
収入印紙郵便局、法務局など
返信用封筒と郵便切手郵便局など

6.相続登記の費用の目安:予算の立て方

6-1.相続登記必要書類の発行手数料

相続登記を行うためには、前章で伝えた通り、戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書など、さまざまな書類を揃える必要があります。これらの書類を発行するための手数料として約1~2万円の費用がかかります。必要書類の数や発行場所によって、費用は変動しますので、あらかじめ予算に組み込んでおくことが大切です。

6-2.登録免許税

相続登記を行う際には、不動産の固定資産評価額に基づいて登録免許税を支払う必要があります。登録免許税は、【固定資産評価額×0.4%】で計算されます。たとえば、評価額が3,000万円の不動産の場合、登録免許税は12万円になります。この税金は、登記を行う際に必ず発生する費用です。

6-3.司法書士への報酬

相続登記の手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、報酬が発生します。司法書士への報酬の相場は、相続登記で約10万円前後です。この費用には、実際の手続き費用と専門家としてのサービス料が含まれます。ただし、相続関係が複雑な場合や、複数の不動産が絡む場合は、報酬が増える可能性があるため、事前に見積もりを依頼すると安心です。

7.相続登記が速やかにできない場合は?

家族や財産の状況によっては、被相続人の死後すぐに相続登記が難しいことがあります。対応策は、相続発生後(事後)および相続発生前(事前)のアプローチが考えられます。

 ❶ 法定相続登記を申請する

相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合、一時的に相続登記の義務を免れるために民法で定められた法定相続分に基づいて相続登記(法定相続登記)を行うことができます。法定相続登記を行った後、遺産分割協議が成立すれば、その日から3年以内に所有権移転登記を申請する必要があります。

また、法定相続登記後の登記手続きは、遺産分割後の不動産を取得した相続人が単独で名義変更登記を申請できるようになりました(2023年4月1日施行)。この改正により、他の相続人の協力なしでも手続きが進められます。

 ➋ 相続人申告登記の申出をする

遺産分割協議がまとまらない場合、法定相続登記の申請には手間とコストが発生します。そのため、2024年4月1日から、遺産分割協議が成立しなくても相続登記義務を回避できる「相続人申告登記」の制度が導入されました。

この制度では、「登記名義人に相続が発生したこと」「相続人が判明していること」を法務局に申し出ることにより、申告者の氏名や住所が登記官の職権によって登記簿に記録されます。この情報は登記簿に次のように記載されます。

(令和6年3月15日付け法務省民二第535号通達より引用)

この申出により、相続人は相続登記の義務を履行したものとみなされますが、権利の取得や法定相続分の確定は含まれません。申出は相続人一人ひとりが行う必要があり、複数の相続人がいる場合は、それぞれが申し出をするか、連名で提出することが可能です。

申出後に遺産分割が行われた場合、その日から3年以内に名義変更登記を行う必要があります。この制度は、あくまで予備的な手段であり、最終的な権利移転を示すものではありません。

 ❸ 相続土地国庫帰属制度を利用する

2023年4月27日から施行されている「相続土地国庫帰属法」は、不要な相続土地を国に渡すことができる制度です。この法律は、放置されがちな相続土地の効率的な利用を促進する目的を持っています。

しかし、利用するには条件があります。国に土地を帰属させるためには、土地評価に基づいた10年間の管理費用を支払う必要があります。また、対象外となる土地もあります。例えば、建物が存在する土地や土壌汚染がある土地、担保権が設定されている土地、通行権が確立されている土地、権利争いがある土地はこの制度を利用できません。

この制度を利用する前に、該当する土地が条件を満たしているか確認する必要があります。

 ❹ 事前に遺産分割が難しくなると予測される場合

事前に遺産分割が難しいと予測される場合、早期の対策が家族間の紛争を防ぎ、スムーズに相続登記義務化への対処につながります。ここでは、遺産分割における潜在的な問題を事前に対処するための方法を検討します。

遺言書を作成する

2023年4月1日から、遺言がある場合には受遺者は遺言執行者や他の法定相続人の協力なしに、単独で名義変更の手続きを行うことが可能になりました。これまでは、法定相続人全員の協力がないと手続きができなかったため、より簡易的になったといえるでしょう。

ただし、この単独申請は遺贈を受ける者が相続人に該当する場合に限られ、相続人以外に遺贈された場合は、引き続き法定相続人全員の協力が必要です。
このように遺言書の準備は、相続手続きを簡素化し、潜在的な紛争を未然に防ぐための重要な手段になりえます。

家族信託をする

家族信託は、認知症による資産凍結を防ぐために効果的です。この仕組みを利用すると、本人が認知症になっても、家族が財産を管理し、事前に資産承継先を定めることができます。相続登記が義務化された場合でも、家族信託により特定の相続人への資産移転が遺言書無しで可能になります。したがって、遺産分割協議が不要となるため、相続手続きがよりスムーズに進行するのです。

8.相続登記義務化に関連する法改正

2024年(令和6年)4月1日から施行される相続登記義務化のほかにも、戸籍法、不動産登記に関する改正があります。ここでは、相続登記義務化に関連する改正内容について解説します。

8-1.所有者の住所変更登記等の義務化

登記簿上の情報が最新でないことは、所在不明土地の問題を引き起こしています。この問題に対処するため、2026年(令和8年)4月1日から、所有者の住所や氏名、名称の変更登記が義務化されます。

変更があった日から2年以内に、所有者はその変更を登記簿に反映させる必要があります。起算日は、例えば転居、結婚、離婚、会社名変更の日など、住民票や戸籍謄本、会社登記簿に記載された日とされます。

変更があった場合、2年以内に登記しなければ、5万円以下の過料が科せられる可能性があります。ただし、「正当な理由」がある場合はこの限りではありません。「正当な理由」の具体的な定義は今後の法務省の通達等で明確化される予定です。この点については、将来的な通達に注意が必要です。

法改正以前の物件にも適用される

住所変更登記等の義務化は相続登記義務化と同様に法改正後に発生した住所等の変更のみならず、法改正以前から住所等の変更登記をしていない不動産についても適用があります。

改正法附則の条文では「”変更のあった日”又は”施行日”のいずれか遅い日」と規定されており、法改正以前から住所等の変更をしていない場合には施行日から2年以内に行う住所等の変更登記をする必要があります。

8-2.本籍地以外で戸籍謄本が取得可能に

戸籍法改正に伴い、2024年3月1日から新しい戸籍謄本の広域交付制度がスタートしました。

この制度により、自分の本籍地以外の市区町村役場でも戸籍謄本や除籍謄本を取得できるようになります。この制度では電子化された戸籍情報を用い、本籍地が遠くても近くの市区町村役場で戸籍謄本を請求することが可能です。また、複数の本籍地にまたがる戸籍謄本の請求も、一箇所の市区町村役場で行えます。

ただし、この広域交付制度では、コンピュータ化されていない一部の戸籍、除籍は対象外とされています。これらは従来通り、本籍地の市区町村役場か郵送での取得が必要です。また、戸籍抄本や除籍抄本の一部情報のみの証明はこの制度では対象外となり、これらも本籍地での取得が必要です。